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岐阜地方裁判所 昭和51年(レ)12号 判決

控訴人 矢島実男

被控訴人 安西義雄

右訴訟代理人弁護士 廣瀬英雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。

《以下事実省略》

理由

被控訴人は、原審において、控訴人に対し、原判決添付目録記載の建物(以下本件建物という。)についてなされた控訴人名義の表示に関する登記及び保存登記の各抹消登記手続を求めていたが、保存登記の抹消登記手続請求につき、訴を却下され、これにつき控訴(ないし附帯控訴)がなされないので、当審では、表示に関する登記の抹消登記手続の当否についてのみ判断する。

岐阜市美島町三丁目一〇番地木造セメント瓦葺一棟東西二戸建床面積約八二・六四平方メートル(ただし、未登記)が被控訴人の所有に属すること、控訴人が本件建物を建築したことについては、当事者間に争いがない。

被控訴人は、本件建物は前記一棟東西二戸建の建物中、西側一戸(以下既存建物という。)に建増しされたもので独立性を有せず、既存建物に附合して、被控訴人の所有に属すると主張するので、この点について判断する。

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから、真正な公文書と推定すべき甲第一号証、原審証人安西正行、当審証人戸崎光則の各証言及び原審における検証の結果を合わせ考えると、つぎの事実が認められる。

既存建物は、従前被控訴人から日本開発株式会社(代表者控訴人)に勤務する石黒唄子に賃貸され、同人において居住使用していた。昭和三九年秋頃前記訴外会社の代表者である控訴人が石黒の居住の便宜のため、別室一間を増築することとし、既存家屋の裏(南側)の庭の空地を利用し、既存建物に隣接して本件建物を建築することとなり、訴外会社が注文主となって、建築業者戸崎光則に注文して、同年一二月中に本件建物を完成させた。本件建物は、コンクリートブロック造りスレート瓦葺平屋で、既存建物の基礎、土台、柱、壁、屋根等の利用はなされず、既存建物とは別個に、その南側壁面から約二〇センチメートルの間隔を置いて建設され、東北部に入口を作り、内部は、四畳半か六畳かの一部屋、台所、風呂場のみからなり、床面積一五・五五平方メートルのもので、便所は既存建物のそれを利用するため設置されておらず、東北部の入口が既存建物の南東部分と接続して出入可能な作りであったので、格別玄関もなく、電気、水道も既存建物から引き込んだもので、その位置関係は本判決添付別紙図面のとおりである(因みに、本件建物完成後三、四ヶ月して、昭和四〇年三月か四月頃石黒の使用しにくいとの希望から、東北部の出入口を塞ぎ、改めて、別に、既存建物の南西部分と本件建物の北西部分に幅畳半畳分位の大きさに双方の壁を取り壊わしてドアを取り付け、両建物を出入可能に接続し、双方の建物の間(約二〇センチメートル)をフローリングの床で接続し、かつまた、その際屋根も既存建物の屋根と重なり合って、その下部に喰い込む形で先端は既存建物の壁面に接着させたので、それ以後、外観上も内側も既存建物に密着した状況を呈する。)。以上のとおり認めることができる。

以上の認定事実によれば、本件建物は、前記完成時たる昭和三九年一二月において、既存建物とは基礎、土台、柱、壁、屋根等を共通にせず、その構造に照らして、外観上既存建物とは物理的に一応別個の建物と認められないではない。しかし、本件建物は、もともと、既存建物の賃借人たる石黒の希望により、既存建物の使用の便宜上、いうなれば、離れともいう別室として建築されたものであり、両者は双方の壁面約二〇センチメートルほどの間隔があるとはいえ、ほとんど接着し、前示の如く、東北部の出入口で一部接続していた上、本件建物の構造、間取り、面積、電気、水道の利用関係その他石黒において現実にも別室として使用していたことなどの諸点に徴すれば、本件建物は、経済的にも取引上それ自体別個独立のものとみるよりも、両者一体として取引の対象となると認めるのを相当し、結局本件建物は昭和三九年一二月の完成時において、既存建物に附合したものというべきである。なお、既存建物が木造瓦葺であるのに対し、本件建物がコンクリートブロック造スレート瓦葺であること及び両建物の壁面の間隔が約二〇センチメー卜ルあることは、右附合の判断を左右しない。

控訴人は、本件建物建設につき被控訴人の承諾を得、かつ自らの出捐により、本件建物を建設したから、権原により附合しないむねを主張するが、控訴人が既存建物に何らかの権原を有することについては、控訴人において主張立証しないから、この主張は理由がない。

してみると、本件建物は、前記昭和三九年一二月以後附合により、被控訴人の所有に属するものといわざるを得ない。

控訴人が本件建物につき、昭和四八年一〇月二六日その名義による表示登記を経由したことについては当事者間に争いがないところ、前示のとおり、本件建物は既存建物に附合したのであるから、物理的に区別し得て存在するとはいえ、登記の対象たる不動産としては、既存建物と合体してその一部となり、それ自体独立性を有せず、表示登記の対象としては不存在なものといわざるを得ない。それゆえ、一体となった両建物の所有者たる被控訴人は、控訴人に対し、本件建物についてなされた表示登記の抹消登記手続を請求し得るものである。

控訴人は、被控訴人の抹消登記請求と有益費として本件建物部分の時価二〇〇万円の償還とが同時履行の関係にあり、その支払があるまで登記手続の履行を拒絶すると主張するが、控訴人において何らかの償還請求権を有するものとしても、被控訴人の抹消登記請求は、控訴人によってなされた元来許さるべきでない所有者でない控訴人名義の表示登記の抹消請求であって、控訴人主張の償還請求権と、関連的に同時履行の関係にあると認める合理的理由はないものと解するのが相当であるから、控訴人のこの抗弁はそれ自体理由がない。

以上により、被控訴人の請求は理由があるから、認容すべきであり、これと同趣旨の原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菅本宣太郎 裁判官 三関幸男 田中恭介)

〈以下省略〉

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